• 4 年前
映画『もち』予告編
800年前の景観とほぼ近い姿で守られてきた岩⼿県⼀関市本寺地区に実際に住む少⼥、ユナ。⼭々に囲まれ、冬には雪深くなる地で、古くから根付いているのは、「もち」の⽂化。1つの⾅(うす)でもちをついて、みんなで⾷べる。それは当たり前のように、ずっと続いて来た習慣。

おばあちゃんの葬式で、⾅と杵でつく昔ながらの⽅法でどうしても餅をつきたいと⾔い張るおじいちゃん。家族は、そんな⾯倒なことをしなくても、餅つき機で同じように美味しいものができると⾔ったが、頑なに餅をつくという。ユナはそんなおじいさんの⼼の機微を感じてそっと寄り添う。

⽣徒の減少から中学校の閉校が決まり、最後の⼀年を終えると学校もなくなる。ユナの世界も刻々と変化をしていき、友⼈、憧れの⼈が離れていくことへの不安を覚えていく。そして彼⼥は問う、「努⼒しないと忘れてしまうものなんて、なんだか本物じゃないみたいー」。

映画に刻まれた少⼥のかけがえのない瞬間が⼼に突き刺さるのは、「忘れたくない」思いと「思い出せない」現実の狭間に、私たちはいつもいるから。

蒼井優主演の映画『たまたま』(2011)の監督ほか、500本以上の映像作品の制作など、幅広く活躍する映像ディレクターの⼩松真⼸。⼀関を訪れた⼩松監督が、そこで出会った少⼥・ユナ(佐藤由奈)の中学⽣活最後の⼀年を追いながら⼀関の⾷⽂化や⼈々の想いを伝えるという、オリジナルのストーリーを構想。

さらにもう⼀つ、⼩松監督を映画製作へと突き動かしたもの、それが本寺中学校の周辺を散策していた際に偶然⾒かけた祭畤⼤橋(落橋)だった。2008 年に起こった岩⼿・宮城内陸地震の際に真っ⼆つに折れた祭畤⼤橋を、災害の教訓を忘れないために折れたままの形で残したものだ。⼩松監督は祭畤⼤橋(落橋)を初めて⾒た当時の⼼境を振り、「⼭深いところに折れた橋がそのままで残っている。それは本当に恐ろしい光景でした。何も知らずに“危なくないですか? なんでそのままにしているの?”と聞いたら、敢えて教訓として残しているんだと。聞いた瞬間に、⾃分が気軽に発した問いをとても後悔したとともに恥ずかしく思いました。なくなっていくものは確かに多い。でも、残していかないといけないものもあるんだと。これまではなんとか残ってきたが、今にも消えていきそうな⽇本の伝統や⽂化にもその裏に先⼈によって込められた意味があり、それを知ることがとても⼤切なんだ」と語る。

その想いから、この⼟地と⼈々によって⽣まれた⾔葉、伝統、そして感情をありのままに残すため、限りなくノンフィクションに近いフィクションという⼿法を選択。脚本は存在するものの、撮影時には脚本はないものとして、⼩松監督は演技経験のないキャストたちを導いていった。

キャストの息遣いを⼤切に、その現場の空気や状況で内容も場所もその都度変化。キャスト⾃⾝の実感のこもった⾔葉を活かした、エチュードを積み重ねていくようなスタイルで、⻘春のドラマでありながらドキュメンタリーさながらにリアルな肌触りを備えた、唯⼀無⼆のハイブリッドな映画を完成させた。

『もち』は4月18日より渋谷・ユーロスペースにて公開。

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