• 9 年前
「認知症の人の数が、今後ますます急増していくと予測される日本で、今私たちには何ができるのか。2回シリーズで国内外の最新研究や画期的な取り組みを紹介する。
第1回のテーマは、進歩が目覚ましい「認知症予防」の最前線。今回とくに注目するのは、“MCI”(軽度認知障害)と呼ばれる認知症の一歩手前の段階だ。最近の研究で、MCIの段階で発見して対策を行えば、認知症への進行を食い止め、予防できる可能性が明らかになってきた。
重要なのは、自分や家族がMCIかどうかをいち早く見極めること。その鍵の一つは、意外にも「歩き方」だ。認知機能に影響が現れるよりも前に、歩行動作にMCIのサインが現れるというのだ。MCIの可能性を見極める、「歩く速さの目安」とは?
さらに、MCIでの認知症予防につながる様々な最新対策や、効果が期待される薬の最新情報も紹介する。

「認知症の予防」。高血圧や糖尿病などの生活習慣病なら必ずいわれる「予防」ですが、認知症に関しては専門家でさえも、予防という考えは広まっていませんでした。しかし、生活習慣(とくに運動や食生活など)の改善をいくつか組みあわせると、効果的な予防につながること。また、認知症の一歩手前の「MCI(軽度認知障害)」と呼ばれる段階であれば、発症をくい止められる、あるいは遅らせられることがわかってきました。こうしたことが明らかになってきたのは、ごく最近のことです。
認知症は今後急増の一途と予想されていますが、予防に取り組んでいけば、この急増をくい止め、介護や医療の体制を守ることにつながります。

「MCIとわかってよかった、と言える社会が来て欲しい」

<MCIは対策を取れば認知症を予防できる>
・このままだといずれ認知症になる危険を指摘され一時はショックを受けた山本さんだったが、その後意外な事実を知って絶望が希望に変わったという。MCIは対処のしようによっては治るというのだ。
・今、世界でもMCIの段階であれば認知症を予防できるという研究が進んでいる。アメリカの研究グループはMCIと診断された高齢者600人がその後どれくらいの割合で認知症になるか追跡調査を行った。その結果、5年間でMCIの人の約5割が認知症を発症したが、4割の人がMCIの状態を維持、残りの1割は正常レベルに戻っていた。この人たちは知らず知らずのうちに何か脳によいことをした結果、MCIから認知症に進まなかった可能性がある。
・それが何かを見極められればMCIの段階で認知症を予防できるはずだとミシガン大学准教授のジュディ・ハイデブリンクさんは考えている。
・MCIと診断された山本さんも、同じMCIの人たちと認知症の発症を防ぐ様々な対策に取り組んでいる。
・スタジオにゲストで招かれた鳥取大学教授の浦上克哉氏(日本認知症予防学会理事長)は「MCIとは“物忘れ”が以前より増える。加齢による“物忘れ”とは違う。」と指摘する。

・MCI:年相応以上の記憶障害
・認知症:生活に支障が出るほどの記憶障害

・浦上氏によれば、MCIの人は日本に推定400万人。MCIの段階での受診は少なく、その診断は専門医がしっかり診ないと難しいという。

<脳の働きの一つ「脳内ネットワーク」>
・MCIの脳では一体何が起こっているのか。認知症(アルツハイマー病)になってしまった人の脳は、正常な人と比べて全体的に萎縮し黒い隙間ができている。しかしMCIの人の脳は殆ど萎縮していない。
・何を調べたらMCIであることが分かるのか。科学者たちが注目したのは新たに分かった「脳内ネットワークと」呼ばれる脳の働きだ。
・私たちの脳は常に様々な場所がめまぐるしく活動している。最新技術でこの活動をみてみると、何をするときにも常に複数の場所が全く同じタイミングで活動していることが分かった。離れた部分の繋がりを脳内ネットワークと名づけられた。
・例えば簡単な計算をするときや視覚、感覚など脳内には様々なネットワークが存在している。それらが協力して働くことで私たちの脳は様々な機能を果たす仕組みになっているのだ。
・MCIの人の脳では脳内ネットワークに異変が起きていることが分かってきた。アメリカ・ワシントン大学を中心とするチームが注目したのは、脳内ネットワークの結びつきの強さ。MCIの人は正常の人と比べ脳内ネットワークの繋がりが明らかに弱まっていた。さらに認知症に進むとその繋がりは衰えていく。
・この脳内ネットワークの弱まりをいち早く捉えられれば、MCIを早期発見できるはずだ。

<脳内ネットワークの弱まりが分かる方法が見つかった>
・その簡単な方法が最近アメリカの研究で見つかった。ある日常生活の動作を見るだけで脳内ネットワークの弱まりが分かるというのだ。
・それは歩行だ。正常な人とMCIの疑いがある人との歩き方を比べてみると、MCIの疑いがある人は足腰が悪いわけではないのに歩く速さが遅くなっていた。
・さらに足の運び方なども測定してみると、正常な人より歩幅が狭くなっている。さらに足の裏に掛かる圧力が一定ではなくふらつきやすいことが分かった。
・脳内ネットワークが弱まると、なぜ歩行が不安定になるのか。私たちが歩いている最中、脳内では視覚や空間認識に関わるネットワークが働き、刻々と変化する周囲の状況を瞬時に判断している。さらにバランスをとるときは体の感覚や運動に関わる脳内ネットワークが働く。こうしたたくさんのネットワークが同時に働くからこそ、私たちは歩くことができている。ところがMCIの人はこれらが弱まるため歩くのが遅くなったり、バランスが不安定になったりするのだ。
・研究グループは実際に世界17か国2万7000人の歩行データと認知症を発症するリスクを調べた。その結果、歩く速さがある基準より遅い人は認知症になる人の割合が1.5倍に。さらに記憶力の衰えの自覚もあると2倍に増えることが分かった。
・バギーズ教授によると「歩く速さが秒速80cm(時速2.9km)以下になると認知症になるリスクが高い」という。
・スタジオでは脳内ネットワーク衰えのサインの目安として「足腰が悪くないのに横断歩道を渡りきれない人は要注意」と紹介された。
・またゲストの一人で認知症予防の運動法などを研究をしている国立長寿医療研究センター部長の島田裕之氏も、膝などに異常がないのに歩くのが遅くなった場合、脳内ネットワークに異常がある可能性があると指摘している。

<MCIの人に見られる変化の例>
(1)外出するのが面倒
(2)外出時の服装に気をつかわなくなった
(3)同じことを何回も話すことが増えたと言われる。
(4)小銭での計算が面倒 お札で払うようになった
(5)手の込んだ料理を作らなくなった
(6)味付けが変わったと言われる
(7)車をこすることが増えた
※3項目以上当てはまるときは専門医(物忘れ外来)に相談してほうがいいと浦上氏は言う。

<脳内ネットワークを改善させる方法とは?>
(1)早歩きなどの有酸素運動。週3回・1日30分程度
(2)軽い筋力トレーニング
(3)食生活の改善。塩分・脂肪を控え、野菜・果物・魚など積極的に摂る。

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