• 11 年前
 いじめや不登校、親からの虐待など、子どもたちの「心」に深刻な傷を負わせてしまう人間関係の問題。こうした解決が難しいと思われてきた問題の背後に、発達障害の一つ「ASD(自閉症スペクトラム障害)」が大きく影響していることが最新の研究から明らかとなってきました。ASD(自閉症スペクトラム障害)は人の気持ちを察したり、自分の気持ちを上手く言葉で表現するのが苦手な障害です。自閉症や広汎性発達障害・アスペルガー症候群など「社会性やコミュニケーション」の障害の総称です。ASDが見過ごされてしまうと、意図せずに人間関係でトラブルを重ねてしまい、いじめや親から子への虐待へと発展してしまうことがあります。そうした状況が長く続くことで、うつ病や自傷行為など深刻な「心の病」を発症してしまうことも分かってきました。
 ASDが原因となり、心に深い傷を負ってしまった子どもたちが集まる診療所を舞台に、なぜいじめや虐待の対象となってしまうのか、心の傷はどうすれば癒えるのかを探ります。また、ASDを一歳半健診で早期に発見し支援する画期的な取り組みや、子どもたちの脳の研究など、ASDと向き合う最前線に密着。

 静岡県浜松市。いじめ・不登校・虐待に悩む子どもたちが集まる「子どものこころの診療所」1年前に開設。幼稚園児〜高校生が集まる。「ASD(自閉症スペクトラム障害)」本人に悪気がなくても周囲と軋轢が。
 不登校に悩む親子の診察。6歳のケンタくん。小学校入学まもなく、登校できなくなった。診察、杉山医師。35年にわたって子どもの心の問題と向き合う。ケンタくん、集団生活が苦手だとわかってきた。図工が好きで粘土をこね、授業時間が過ぎても周りの変化に気づかない。
 先生「早く体育の準備をしなさい」ケンタくん「僕は図工がやりたいのに、なぜ体育をやらないといけないの?」自分の行動が毎日否定され、学校へ行くことが苦痛になってきた。これまでは本人や子育てに問題があるとされてきたが、杉山医師はASDと診断。
 杉山医師「毎回15分刻みに宿題をやるより、まとめてやるとか。おうちでやることを集中してやればいい」自信を失うことがないよう、家族が支えることが大事だと。学校にも説明し、理解してもらう。周りが接し方を変えることで、ケンタくんは登校できるように。
 学校でのいじめに苦しむ子も。小学校2年生の美優ちゃん。ASDと診断。大きな音が苦手。街中では耳栓。知能や言葉に遅れはない。本を読み出すと何時間でも没頭。興味のあることばかりずっと続ける。喋りだすとずっと喋る。これがからかわれる原因になるのではと母は心配。
 学校でいじめを受け、精神的に不安定になり、突然泣き出したりうわ言を言ったりするように。診療所を訪れたが、落ち着いて席に座っていられない。いじめを受けたあと、些細な事でつらい記憶が蘇る「フラッシュバック」に苦しむ。
 授業中、席にずっと座っていられず、すぐに立ったり喋ったりする美優ちゃん。皆が九九を暗誦する大声に耐えられず、叫びながら教室を飛び出す。給食で輪になった時、相手の話に耳を貸さず、自分の好きな話ばかり。相手が困っていることに気づかない。
 真似をされ、からかわれたり、小突かれたり。言葉で嫌だと伝えるのが難しく、さらにいじめを受ける。やがて、話し声や笑い声を聴くだけで、いじめの記憶が蘇り、フラッシュバックを起こすように。止めるには、原因のトラウマを取り除くことが必要。
 杉山医師、左右の手に交互に刺激を与えながら、一番つらかったいじめの体験を思い浮かべさせる。「EMDR」眼球運動による脱感作および再処理法。トラウマを、苦痛を感じない記憶へと変化させる心理療法。杉山医師、ASDを学校でも理解・対応するようアドバイス。
 学校は、美優ちゃんの席の周りにパーティションを立て、視界に入らないように。音楽の授業では耳栓をつける。学校や家庭が理解・対応することで、周りとの軋轢が減り生活しやすくなる。月2回通院しながら様子を見ることに。
 自閉症は30年ほど前まで、めったに見ない珍しい障害と思われていた。大きく変わるきっかけは、1977年、1歳6ヶ月乳幼児健診の開始。自閉症と似た症状の子供が多くいることがわかった。親とうまく意思の疎通ができていない子供たち。
 この事実は世界にも大きな影響を与えた。イギリス、自閉症の有無を調べる大規模な疫学調査。社会性やコミュニケーションの障害を持つ子供が一定数いることが明らかになった。治療のために、新たな診断基準が必要だと研究者たちが訴え、ASDという診断名が生まれた。
 社会性やコミュニケーションの障害は、人生に何をもたらすのか。宇田聡さん36歳。職場での人間関係のトラブルから職を転々。さまざまな精神疾患の診断を受けるも、一向によくならない。27歳でASDとわかり、カウンセリングで人付き合いの指導を受けるように。
 ASDとわかるまで、なぜ自分が周囲から疎まれるのかわからなかった。小学校3年生の頃、思いついたことを何でも口にしてしまうため、クラスで孤立。激しいいじめが始まり、暴力も受けた。その原因を指摘されても、まったくわからなかった。
 ASDと診断されて以降、場面場面で何を言うべきか、意識的に学ぶようになった。周りの人は何を言ったら傷つくのか、知識として学ぶ。「健常者は、生活の中でコミュニケーションを感じ取って自然に学ぶ。私はなかなか感じ取れない。解説してもらって今の自分がいると思う」
 金沢大学医学部。ASDの子供たちの脳を研究。200人以上。MEG(脳磁場計測装置)脳のどの部分が活発に働いているかわかる。人間の声を聴いた時、健常児は左脳が比較的活発に働く。ASDの子供は、右脳と左脳であまり大きな差がない。
 左脳のブローカ野と右脳のウェルニッケ野をつなぐ部分(言葉の概念を司る)のネットワークの働きにかかっている。会話をしても同じイメージを共有できず、違和感が生じるという。またASDの子供は、右脳の視覚的な認識・記憶能力が高いという。これを生かして支援を、と。
 ASDの人は、ものの見え方や聞こえ方など感覚にも違いがあることがわかってきた。小児神経科医の宮尾医師。診察に訪れた7歳の少年、光や音の刺激に苦しむ。母親「光がむかつくんだよね」少年「むかつくっていうか嫌い」
 研究チーム、独特な空間の見え方を映像で再現。壁と天井の境目の線が、ASDの子供には光の刺激でよく見えないことがある。部屋をひとつのまとまった空間として捉えられない。
 10歳の少年、起きた出来事を詳細に絵に再現することができる。教師からの叱責や同級生からのいじめまでも、鮮明に蘇ってしまう。母親「自分では止められないって言ってました」記憶が鮮明であることが、フラッシュバックの原因でもあったという。
 ASDへの対応が遅れ、深刻な心の病に発展するケースも。16歳の少年。うつ状態がおさまらず、病院を転々とするも症状が改善しない。9歳でASDと診断、しかし学校のいじめへの対応が不十分で、中学から不登校を繰り返す。やがてうつ状態、フラッシュバックを起こす。
 以下http://togetter.com/li/465675?page=2

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