• 12 年前
 上半身が揺れ続け止まらなくなった小学生。足の先がけいれんし、小刻みに震える高校生。今、向精神薬と呼ばれる薬の副作用に多くの子どもが苦しんでいます。向精神薬は、発達障害やうつ病などの精神疾患に処方される薬です。
 しかし、子どもに処方する際の明確な基準はありません。小学2年生のときに、クラスで落ち着きがないと言われ、向精神薬をのみ始めた男の子。頭痛などの副作用に苦しみました。
母親
「能面のような表情になってしまったり、でも薬を飲まないと学校にいられないんじゃないかと。」
 学校では今、子どもの心の問題に医療機関と連携して対応しようとする取り組みが、国の方針で進められています。
文部科学省 担当者
「子供たちの問題も、早期発見、早期対応するために、医療の力を借りないと解決しないというところがあります。」

 これに対し、副作用に悩んだ人や家族から危惧する声が上がっています。
向精神薬を投与された高校生の母親
「薬によってどんどん息子が変わってきて、やっぱり薬を飲ませるべきじゃなかったとすごく思います。」
(中略)
 担任は、市の教育相談を受けるよう指示。市の担当者は、母親に病院に行くよう伝えました。精神科の医師は、発達障害の疑いがあるとして、衝動的な行動を抑える向精神薬を処方しました。
 「『クラスの中でなじめないんだったら(薬を)飲んでみます?』って言われて、飲んでみなくちゃいけないのかなあ程度だったんですけど。了承して飲ませました。」
 薬をのみ始めると、男の子は落ち着いて授業を受けられるようになりました。しかし一方で、生き生きとした表情が消え痩せていったといいます。

 「たまに頭痛がきて食欲がなくなったり、いつものように力が出ないっていうか。」
母親が薬の添付文書を読むと、男の子が訴える症状が副作用として書かれていました。心配になった母親は、薬をやめたいと担任に申し出ました。しかし、学校側は、薬で男の子は落ち着いている。この状態を保ってほしいと譲らなかったといいます。

母親
「薬を飲まないと、学校にいられないんじゃないかって。息子は排除されるんじゃないかって。そういう気持ちでいっぱいになって。」
 学校で問題を抱えた子どもが病院を受診し、薬をのむケースは最近、増えているといいます。
 フリースクールの理事長奥地圭子さん。ここ数年、子どもたちがすぐに、医療につなげられる傾向に疑問を感じてきました。奥地さんは、全国の親の会に呼びかけて、子どもと医療の実態についてのアンケートを実施しました。
 その結果、学校に通えない子どもの7割が精神科を受診。さらに、その7割が向精神薬をのんでいました。
「学校から医療へのハードルが低くなり過ぎ、危険だと感じる。」
「これでは薬漬けになってしまうと、恐怖を感じている。」
「今は大変、薬が多剤、多量投与になっちゃってて、どうしてこんだけの薬がいるんだろうっていうくらいに出ます。果たして子どもにとっていいんだろうかっていう非常に大きい問題をつきつけられていることがわかる。」

 国立精神・神経医療研究センターの中川栄二医師です。全国の精神科、小児科の医師に調査を行い、600人から回答を得ました。
 発達障害の症状がある子どもへの向精神薬投与について。どんな薬を、何歳からどれだけの量を与えているかそれぞれの医師に聞きました。
 興奮を抑える薬を3、4歳で与えていた医師。睡眠障害を抑える向精神薬を、1歳から2歳で投与した医師もいました。回答を寄せた小児神経科医の声です。
「内心ヒヤヒヤしながら処方。」
「重篤な副作用もまれではない向精神薬を使い続けることに疑問を感じる。」
 この結果を受け、中川さんは今、子どもに対する向精神薬の処方の指針作りに取り組んでいます。

国立精神・神経医療研究センター 中川英二医師
「向精神薬が成長過程にある子どもの脳に与える長期的な影響については、全く解明されていません。慎重な投与が必要だと思います。」

(中略)

向精神薬 子どもへの影響は
ゲスト石川憲彦さん(精神科医) 井上記者(水戸放送局)
●小学校低学年までの投与開始が7割を超えているが

石川さん:やっぱり、それはとても心配で、人間の脳っていうのは、生れ落ちたときにもうすでに土台と、それから大枠組みが出来ているんですけれども、8歳ぐらいまでの間に内装をするようなこととか、いろんなことをして徐々に作っていくわけですね。
 そして、8歳ぐらいで、形は一応、大人並みになるんですが、そのあとは配線工事なんかが、その後数年間、ものすごい勢いで起こる、つまりそういう途中段階は、大人とは全く違う、そこに起こったことというのも違うので、これはとても怖いことだと思います。

●どんな副作用が考えられるのか
石川さん:画面に出たような運動に出るというような、見える副作用の場合は、比較的誰でもすぐ分かるんですけれども、これ、薬というのは、全部の脳に働きますから、全神経、全部の脳に、それから全身にも回るんで、肝臓、すい臓、腎臓、これらに対する危害というのは、逆に見えないだけに、気が付いたときには手遅れということがあるぐらい、全部。

●問題のある箇所だけに行くわけではないのか
石川さん:そうですね、薬はそういう形ではいってくれません。

●なぜ、そうした傾向が拡大しているのか

井上記者:最近は、発達障害やうつ病などの兆候を早く見つけて、必要なら早く医療につなげて専門的なケアをしたほうが症状の悪化も防げて、本人のためにもいいという考え方が学校現場や、それから医療の世界にも浸透してきているんです。
 文部科学省は、子どもの異変を見抜くための、教師向けの手引きというのを作成しておりますし、それから地域では、病院の医師が学校の中に入っていって、教師の相談に乗るというような取り組みも各地で始まっているんです。
 こうした早期の対応をすることで、子どもの周囲の環境が整えられて状況が改善するということも、もちろんあるんですが、中には不必要な投薬を受けて、深刻な副作用に苦しむというケースも出てきているんです。

●学校から医療に子どもたちがいざなわれる傾向
石川さん:私は、2つほど大きな問題があると思うんですが、1つはやっぱり、精神障害っていうのが広がる、発達障害ということばが広がると、親も先生も、医者も見逃してはいけないという意識が強く働くんですね。
 ですから、いいことをしてあげなければと、善意から見逃すことへの恐れと善意とが混ざって、どんどん、ともかく見逃さないようにという傾向が強くなってる。
 もう1つは、それとともに、先生方も親も地域で子どもの行動を、これは昔だったら、元気がいいって見たとか、個性的と見たり、チャンスだっていうふうに、いろんなおもしろい行動と見たものを、問題行動なんじゃないかっていうふうに、悪い方向に見るようになってしまった。そういう余裕が、しかも先生から奪われて、しかもそれを生かそうという感じが減少してきている。やっぱり医者に任せたほうが楽だっていう、その2つのことが重なっているように思うんですね。

参考:http://bit.ly/SQloEN

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