マジカル・カレー・ツアー インドの多様性と統一感

  • 12 年前
人口12億、中国と並ぶ21世紀の経済大国と目されるインド。その実像を読み解く鍵はカレー。
辛島昇東大名誉教授は、半世紀以上にわたりインド社会の変遷を研究してきたインド史の世界的権威である。そんな辛島のもうひとつの顔は、カレー博士。あの「美味しんぼ」にも実名で登場し、主人公の山岡に「カレーとは何か」の教えを授けている。辛島は、インドの寺院の壁に刻まれた文章(刻文)から、千年以上前のレシピを解読するなどしてカレー成立の歴史をたどってきた。東西交易の要衝だった南部の「スパイス」と、遊牧民たちが行き交った北部の「乳製品」の出会いこそがカレーの本質だという辛島。その二つを共通項としながら、圧倒的な多様性と広がりをもつカレーのあり方は、まさにインド文化そのものだと辛島はいう。
辛島が解読した千年前のレシピから、衝撃のちょい足しメニュー、インドの「みそ汁」まで、レシピも含め一挙紹介。インド一周カレーツアーを敢行する。カレーを育んだ地理的・歴史的条件とともに浮かび上がってきた「インド式ものの考え方」とは?おいしくも奥深い。

太田:「これダメなんだからダメでいいじゃん、あとは思考停止」っていうところに行くのが合理主義だと思うんですよ。つまりそれは、西洋の合理主義ね。もう駄目なものは駄目。敗者は敗者、勝者は勝者で、こいつら(敗者)は切り捨てるしかない。それを考えると、このインドのこういう考え方って、全部をすくい取ろうっていう、あきらめないっていうことですよね。
辛島:今は世界の中でグローバリゼーションっていうのが非常な勢いで進んでいて、これがもう大変な問題を起こしているわけですよね。何かもう経済至上主義のような価値でもうすべてがやられちゃって、それが非常な困難を起こしている。 だからこそ「一つの価値でもって統一するんじゃなくて、個々の価値を残しながら、何か全体が統一されている」っていう、インド文化のありかたをむしろ真似てっていうか、インド文化が我々に教えてくれるところじゃないかっていうのが、僕がこの頃非常に強く感じるところで。
田中:南と北と東インドのカレーの違いは覚えたよね。いわゆる日本のインド料理の店で一番食べそうなのは北だね。南はやっぱりちょっと独特ですね。あと東もナスの料理(ベグン・バジャ)なんて全然食べたことがなかったし。インパクトは一番、びっくりしたけど。おいしかった。