• 8 年前
無責任に「安全」を布教する
山下俊一の正体

白石 今日は重要な本をお見せしたいと思います。
『チェルノブイリ事故の健康影響――四半世紀後の結果』(原題:HEALTH EFFECTS OF THE CHERNOBYL ACCIDENT-a Quarter of Century Aftermath)という報告書です。


 ウクライナの報告書は、2011年4月に政府の緊急事態省が出版した『ウクライナ国家報告書(Twenty-five Years after Chernobyl Accident:Safety for the Future──National Report of Ukraine)が有名ですが、実はこの年8月に放射線の健康への影響だけをまとめた、もっと詳細な先の報告書が出されていました。

 この本のページをめくって、冒頭に驚いたのは、長崎大学がこの報告書を作成していて、山下俊一氏が巻頭序文を書いているのです。


広瀬 ダイヤモンド書籍オンラインを読む人に紹介しておきますと、山下俊一は、長崎大学の原爆後障害医療研究所教授や、緊急被ばく医療研究センター長、日本甲状腺学会理事長を歴任した人物です。
 つまり長崎では、被曝問題の権威なのです。フクシマ原発事故後、すぐに福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーに就任し、

「安定ヨウ素剤を今すぐ服用する必要はありません」
「甲状腺が影響を受けることはまったくありません」
「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人にはきません。クヨクヨしている人にきます。笑いが皆様方の放射線恐怖症を取り除きます」

 と、被曝を放置する、無責任きわまりない発言を繰り返した重大な犯罪者です。
 山下俊一の正体については、『東京が壊滅する日』にくわしく書いたので読んでください。


広瀬 隆
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。
白石 その山下俊一氏が、ウクライナの報告書では、こう書いています。

「日本における最悪の原子炉事故からの早期の回復にとって、チェルノブイリからの教訓は間違いなく有用であり貢献するものである」

「人類に対する放射線の影響は、複雑であるが単純に二つに分類することができるかもしれない。急性影響と慢性影響、そして高線量影響と低線量影響である。それゆえ、緊急被ばく医療においてと同様に、低線量で低線量率の放射線影響とモデルの潜在的なインパクトを識別するのに、国際的な共同プロジェクトはきわめて重要である」

 さらに、目次には「放射線の影響──チェルノブイリ事故を受けて発症した影響による病気」として、甲状線ガンはもちろん、白血病、固形ガン、細胞遺伝学的影響、免疫学的影響、持続的ウイルス感染、非腫瘍性疾患、心血管疾患、甲状腺障害、目や歯への影響などが載っています。

 日本では、チェルノブイリの健康影響というと小児甲状腺ガンばかりがクローズアップされてますが、ここにはさまざまな疾病が並んでいます。
 驚くのは、この報告書は、文部科学省の「グローバルCEO」の予算でつくったと書かれていますが、日本ではまったく流通していません。
 ウクライナに連絡してみると、「長崎大学に300冊送った」というのですが、長崎大学に問い合わせたところ、「もともと20冊しかなく、すべて関係者に譲ったので、手元には一冊もない」と言われてしまいました。
 結局、私はあらゆる手を尽くして、ウクライナ側から入手しました。


白石 草
(Hajime Shiraishi)
早稲田大学卒業後、テレビ局勤務などを経て、2001年に独立。同年10月に非営利のインターネット放送局「OurPlanet-TV」を設立。一橋大学大学院地球社会研究科客員准教授。2012年に「放送ウーマン賞」「JCJ賞」「やよりジャーナリスト賞特別賞」、2014年に「科学ジャーナリスト大賞」をそれぞれ受賞。著書に『ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち』『メディアをつくる――「小さな声」を伝えるために』(以上、岩波書店)、『ビデオカメラでいこう――ゼロから始めるドキュメンタリー制作』(七つ森書館)などがある。
広瀬 驚いた。原発事故とさまざまな病気の関係がある事実について、長崎大学がお墨つきを与えている報告書が出回ると、具合が悪いから隠しているのだ!!

白石 重要な本ですから、文部科学省は日本語版を作成し、全国の大学や図書館に配布してもらいたいものです。

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