子宮頸がんワクチン 国研究班「脳に障害」

  • 8 年前
「NEWS23」が継続してお伝えしている子宮頸がん予防ワクチンをめぐる動きです。
番組ではワクチンを接種した少女たちの記憶力などが低下する症状について取り上げて きましたが、国の研究班が16日、脳の障害に関する新たな研究結果を発表しました。

利き手だった右手がうまく動かせなくなってから5年がたとうとしています。
酒井七海さん(21)。足が思うように動かせず、車いすを使う生活が当たり前のように なりました。こうした症状を発症したのは、子宮頸がんワクチンを接種してからです。

日本でこれまで接種した338万人のうち、副反応の報告があったのは2584人。
2年前、酒井さんは別の病院に通院していました。現在はまた違う病院に。
今回が22回目の入院となります。

「足を真っすぐにすると震える・・・」(酒井七海さん)
目に見える症状のほかに、今、深刻なのは、記憶の障害です。

「(七海さんが)予定とかを忘れちゃうので・・・」(母親)
「やったことを常にスマホに記録していて。11時40分に(取材が)来たので、 とりあえずここ(スマホ)に書いておいて、夜、まとめて、ノートにきょう何時に何をしたというのを書いたりして」(酒井七海さん)

これまで、国の検討部会はこうした症状を少女たちの心身の反応としてきました。
そうした中、16日、厚生労働省で国の研究班の1つが新たな研究成果を発表しました。
研究班の代表を務める池田修一信州大学医学部長。この1年間、全国の患者およそ140人の研究を進めてきました。そこでわかってきたのが、記憶力の低下などを訴える患者の傾向です。

「『情報の処理速度』だけが極端に落ちている。正常の6割くらいまで落ちている」
(国の研究班の代表 信州大学 池田修一医学部長)

少女たちに何が起きているのでしょうか。実験用の特別なマウスを使って分析が行われました。
マウスにそれぞれ、子宮頸がんワクチン「サーバリックス」、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチンを打ったところ、子宮頸がんワクチンを打ったマウスにだけ脳に異常が発生していることがわかったといいます。

「子宮頸がんワクチンを打ったマウスだけ、脳の海馬・記憶の中枢に異常な抗体が沈着。
海馬(記憶の中枢)の機能を障害していそうだ」(国の研究班の代表 信州大学 池田修一医学部長)

脳の画像データ。子宮頸がんワクチンだけ緑色に光る異常な抗体が出ています。

「明らかに脳に障害が起こっている。ワクチンを打った後、こういう脳障害を訴えている患者の共通した客観的所見が提示できている」(国の研究班の代表 信州大学 池田修一医学部長)

異常が見つかったのは脳だけではありません。子宮頸がんワクチンを打ったマウスの足の裏にある神経の束を撮影したもの。正常な神経は黒く太いバンドで取り囲まれています。
しかし、マウスから見つかった異常がある神経は、正常のものと比較すると、黒いバンドの部分が壊れて亀裂が入り、膨らんでいるのがわかります。

「この神経は情報が正確に早く伝わっていかないと考えられます」
(国の研究班の代表 信州大学 池田修一医学部長)

こうしたマウスの異常はワクチンを打ってから9か月ぐらいで現れたといいます。
さらに研究班は、特定の遺伝子にも注目しています。記憶の障害を訴える33人の患者を調べたところ、そのおよそ8割で同じ型を保有していることがわかりました。

「(注目している遺伝子は)中国・日本など東アジアの人に多い。子宮頸がんワクチンの副反応が日本でクローズアップされた遺伝的背景の1つの原因かもしれないと考えています」
(国の研究班の代表 信州大学 池田修一医学部長)

国の研究班は今後、今回、マウスなどで見られた異常と、ワクチンの成分との関係について、本格的な分析を進める予定です。
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【子宮頸がんワクチン:脳機能障害、患者8割が同じ遺伝子】
2016年3月16日 毎日新聞

 子宮頸(けい)がんワクチン接種後の健康被害を訴える少女らを診療している厚生労働省研究班代表の池田修一信州大教授(脳神経内科)は16日、脳機能障害が起きている患者の8割弱で免疫システムに関わる遺伝子が同じ型だったとの分析結果をまとめた。事前に遺伝子型を調べることで、接種後の障害の出やすさの予測につなげられる可能性があるという。厚労省内で開かれた発表会で公表した。

 研究班は信州大と鹿児島大で、ワクチン接種後に学習障害や過剰な睡眠などの脳機能障害が出た10代の少女らの血液を採り、遺伝子「HLA−DPB1」の型を調べた。

 その結果、「0501」の型の患者が信州大で14人中10人(71%)、鹿児島大で19人中16人(84%)を占めた。「0501」は一般の日本人の集団では4割程度とされ、患者の型に偏りが見られた。

 池田教授は「ワクチンの成分と症状の因果関係は分からないが、接種前に血液検査でHLAを調べることで発症を予防できる可能性がある」と話した。

 研究班は今後、対象を手足の痛みなど別の症状のある患者も含めて150人に広げ、発症の仕組みなどについて研究を続ける。

 子宮頸がんワクチンは2009年12月以降、小学6年から高校1年の少女を中心に約338万人が接種を受けたが、副作用報告が相次いで13年6月から接種の呼び掛けが中止されている。【斎藤広子】

免疫異常誘発の可能性
 厚生労働省研究班の今回の分析は、子宮頸がんワクチンの接種を引き金に免疫機能が異常をきたし、過剰な反応が起きている可能性を示す。調査数が少なく「科学的に意味はない」(日本産科婦人科学会前理事長の小西郁生・京都大教授)との指摘もあるが、厚労省の専門家検討会が原因とみている接種時の痛みや不安に伴う「心身の反応説」とは異なる観点からの研究で、今後が注目される。

 世界保健機関(WHO)は同ワクチンの安全宣言を出し、接種を事実上中断している日本の対応を批判している。名古屋市も昨年、7万人対象の調査で接種者と未接種者の間に発症差はなかったと発表しており、接種再開を求める声も強い。

 ただ、患者らが訴える症状の原因は、解明の途上だ。研究班は複数のワクチンをマウスに接種する実験で、子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳だけに神経細胞を攻撃する抗体が作られたとしている。また、人種差があるHLA型に着目した研究は、国ごとに違う副作用発生率を比較するのに役立つ可能性があり、新たな知見が得られるかもしれない。

 接種再開の議論をする際は、こうした原因解明の取り組みや治療法の開発の状況を考慮することが求められる。

 【ことば】HLA
 細胞の表面にあるたんぱく質で、体に入る異物を攻撃する目印になる。HLAを構成する遺伝子は複数あり、それぞれのHLA型は糖尿病やベーチェット病などさまざまな病気のなりやすさと関係しているとされる。研究者らが作る国際データベースによると「HLA−DPB1」の型が「0501」の人は、日本や中国、オーストラリアなどで多い一方、欧州や北米では低い傾向がある。

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